
【記事監修】社会保険労務士 嶋崎豊人
従業員から「退職金はいくらくらいになりますか?」と聞かれて、どれほどの方がすぐに答えられるでしょうか?
中小企業で広く利用されている退職金制度のひとつに『中小企業退職金共済制度(中退共)』があります。
中退共に月5,000円を5年間納付した場合、従業員に支払われる基本退職金は約30万円です。
この金額を「十分」と感じるか「少ない」と感じるかは人それぞれですが、退職金を含めた福利厚生は、従業員が会社への安心感や将来性を判断する要素のひとつでもあります。
制度の内容によっては、採用や定着に影響を与える可能性もあるでしょう。
そこで本記事では、前半で退職金の目安額や退職金制度を設けない理由・退職金制度を設けないリスクを解説し、後半部分で中小企業が取り入れやすい退職金制度を紹介します。
自社の退職金制度を見直す際の参考として、ぜひ最後までご覧ください。
中小企業は退職金が少ない?納付年数別の金額目安

退職金の金額は、会社が採用している制度や勤続年数などによって異なるため、一概に「いくらなら少ない」とはいえません。
ここでは、中小企業が利用できる代表的な制度のひとつ『中小企業退職金共済制度(中退共)』を例に、掛金と納付年数によって退職金額がどのくらい変わるのかを見ていきましょう。
中小企業退職金共済制度(中退共)とは、中小企業が導入しやすい退職金制度として設けられた公的な共済制度のこと。中退共の基本退職金額は、月々の掛金と納付月数に応じて法令で定められています。
下表は、納付年数と月々の掛金をもとに算出した基本退職金の目安です。
| 納付年数/月々の掛金 | 2,000円 | 5,000円 | 10,000円 | 14,000円 | 18,000円 | 30,000円 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 5年 (60月) | 12万1,640円 | 30万4,100円 | 60万8,200円 | 85万1,480円 | 109万4,760円 | 182万4,600円 |
| 10年 (120月) | 25万3,120円 | 63万2,800円 | 126万5,600円 | 177万1,840円 | 227万8,080円 | 379万6,800円 |
| 20年 (240月) | 53万3,320円 | 133万3,300円 | 266万6,600円 | 373万3,240円 | 479万9,880円 | 799万9,800円 |
| 30年 (360月) | 84万2,620円 | 210万6,550円 | 421万3,100円 | 589万8,340円 | 758万3,580円 | 1,263万9,300円 |
| 40年 (480月) | 118万3,580円 | 295万8,950円 | 591万7,900円 | 828万5,060円 | 1,065万2,220円 | 1,775万3,700円 |
※法令の改正などで金額が変わる場合もあるため、金額はあくまで目安となります
※中退共の退職金には、運用利回りが予定運用利回りを上回ったときに基本退職金に上乗せをする“付加退職金”というものがありますが、上表の金額には含まれていません。
【参考】厚生労働省|基本退職金額表を参考に作成
たとえば毎月5,000円を納付する場合、基本退職金は5年で30万4,100円、20年で133万3,300円、40年で295万8,950円です。
このように、退職金額は納付年数だけでなく、会社が毎月いくら掛金を負担するかによっても大きく変わります。
そのため、自社の退職金が「少ないかどうか」を考える際は、金額だけを見るのではなく、会社がどの程度の負担を継続できるのかも含めて制度を検討することが大切です。
退職金制度を設けていない中小企業がある理由

中小企業のなかには、十分な退職金を準備することが難しい会社や、そもそも退職金制度を設けていない会社もあります。
内閣官房の資料によると、退職給付制度を実施していない会社の割合は10.2%あるとわかりました(※1)。
では、なぜ退職金制度を設けないのでしょうか?
主な理由として、次の3つが挙げられます。
- 従業員の在職期間が短いから
- 毎月の給与や賞与に上乗せしているから
- 定年制を設けていないから
従業員の入れ替わりが多く在職期間が短い会社では、退職金制度を設けていないケースがあります。
また、退職金として将来支給する分を、毎月の給与や賞与に上乗せして従業員へ還元している会社も。
さらに、従業員数500人未満の会社では「定年制を設けていない」ことを理由に、退職金制度を設けていないこともあります。
一方で、同資料では「アンケートに回答した会社のうち88.4%は、退職一時金制度や企業年金制度を導入している」という結果も出ています(※2)
会社規模によって採用する退職金制度に違いはありますが、多くの会社が退職金について何らかの対策をしている状態です。
【※参考】内閣官房|令和6年度 民間企業における退職給付制度の状況等に関する調査研究報告書※1 P18、※2 P11
退職金制度がない中小企業に起こりうるリスク

そもそも、退職金制度を実施しない場合、会社にはどのようなリスクがあるのでしょうか。
近年では、福利厚生を重視して就職先を選ぶ人や、より良い環境を求めて転職する人が増えています。
そのため、退職金制度を含めた福利厚生の充実は、人材採用や定着に影響を与える要素のひとつと考えられます。
ここでは、退職金制度を設けないことで考えられる2つのリスクを紹介します。
新卒採用への応募が減る
退職金制度をはじめとした福利厚生が十分に整っていない場合、新卒採用で応募者を集めにくくなる可能性があります。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の資料によると、新卒者が就職先を選ぶ際に重視する項目として「福利厚生の充実」を挙げた人は、44.9%でした(※)。
「社風・職場の雰囲気」「給与・賞与などの処遇面」に次いで、「福利厚生の充実」は3番目に重視されています。
そのため、競合他社と比較した際に福利厚生の内容に差があると、応募先として選ばれにくくなる可能性があります。
退職金制度は福利厚生のひとつであるため、自社の制度を見直すことも採用力の向上につながるでしょう。
【※参考】独立行政法人 労働政策研修・研究機構|就職先の会社を決める際に重視したことは、社風・職場の雰囲気、処遇などの順――東京商工会議所「2025年度新入社員意識調査」の集計結果
従業員の定着率が下がる
退職金制度を実施していない場合、新卒者の応募数が減るだけでなく、従業員の定着率にも影響を与える可能性があります。
同資料によると、「機会があれば転職したい」と回答した新卒者の割合は、2015年から2025年までの10年間で14.1ポイント増加しました(※)。
近年では、「定年まで1つの会社で働く」という考え方にとらわれず、より良い待遇や働きやすい環境を求めて転職する人が増えています。
そのため、給与だけでなく、退職金制度を含めた福利厚生の充実も、従業員に長く働いてもらうための重要な要素になると言えるでしょう。
【※参考】独立行政法人 労働政策研修・研究機構|就職先の会社を決める際に重視したことは、社風・職場の雰囲気、処遇などの順――東京商工会議所「2025年度新入社員意識調査」の集計結果
中小企業が取り入れやすい退職金制度

中退共をはじめとした退職一時金制度のほかに、中小企業が導入しやすい制度として『企業型確定拠出年金(企業型DC)』があります。
企業型DCとは、会社が拠出した掛金をもとに、従業員自身が運用して老後資産を形成する企業年金制度のことです。

原則として60歳以降に一時金や年金として受け取れるため、企業型DCを退職金制度のひとつとして活用する企業も増えています。
会社によっては、中退共などの退職一時金制度と企業年金制度を併用して、退職金制度をより充実させているケースも。
| 従業員数(社数) | 退職一時金制度のみ | 退職一時金制度と企業年金制度を併用 | 企業年金制度のみ |
|---|---|---|---|
| 50〜99人(443社) | 55.8%(247社) | 24.80%(110社) | 4.7%(21社) |
| 100〜499人(415社) | 52.8%(219社) | 29.60%(123社) | 6.5%(27社) |
【参考】内閣官房「令和6年度 民間企業における退職給付制度の状況等に関する調査研究報告書」P12を参考に作成
さらに、上表で「企業年金制度」を導入している会社のうち、企業型DCを選んでいる割合は40%を超えています。
| 従業員数 | 企業型DC | 確定給付企業年金(規約型) | 確定給付企業年金(基金型) | 厚生年金基金 |
|---|---|---|---|---|
| 50〜99人 | 41.20% | 16.80% | 13% | 19.10% |
| 100〜499人 | 48.70% | 30% | 13.30% | 10.70% |
【参考】内閣官房「令和6年度 民間企業における退職給付制度の状況等に関する調査研究報告書」P16を参考に作成
企業型DCのなかでも『選択制』という設計プランを採用すると、従業員は給与の一部を企業型DCの掛金として積み立てる選択ができます。
そのため、新たに資金調達の不安を抱えなくて良い点は、会社にとって大きなメリットです。
従業員は、会社が拠出した資金を年金に回さずに給与として受け取る選択もできるため、制度導入への納得感も得やすいという特徴があります。
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関連記事▶︎▶︎企業型確定拠出年金(企業型DC)とは?メリットや導入手順をわかりやすく解説
【まとめ】中小企業の退職金制度は採用・定着の重要なポイントになる

中小企業にとって退職金制度は、従業員の将来を支えるだけでなく、採用力や定着率の向上にもつながる重要な制度になります。
「自社は退職金が少ないから…」と諦めるのではなく、企業型DCといった自社の経営状況に合った制度を選ぶことが大切です。
将来を見据えた制度づくりを進めて、従業員に選ばれる会社づくりを目指しましょう。
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あいわOfficeでは、中小企業の経営状況や従業員数、現在の退職金制度などを踏まえ、一社一社に合った企業型DCの導入サポートをしています。
制度についてわかりやすく説明しますので、「まずは制度のことを知りたい」という段階のご相談でも問題ございません。
申請書類の作成や制度導入に伴う就業規則の整備だけでなく、従業員に納得してもらうための制度の説明までお任せいただけますので、安心してご相談ください。

【この記事の監修者】
社会保険労務士法人
あいわOffice代表
嶋崎 豊人
同志社大学卒業後、2015年に行政書士事務所と社会保険労務士事務所を開設。
2020年には、山口県下関市の現事務所にオフィスを移転し、2021年に法人化。2024年には、福岡市博多区に福岡オフィスを開設。
人生100年時代と言われるなかで、中小企業で働くすべての人が「この会社で働いて良かった」と思える組織づくりを目指して、日々奮闘中。
