
人手不足が続くなか、「給与だけでは人が集まらない…」「採用しても定着しない」と感じている経営者は少なくありません。
人材採用・定着の課題に悩む会社が、新たな対応策として注目している制度に『企業型確定拠出年金(企業型DC)』があるのをご存知でしょうか?
企業型DCは、会社が掛金を拠出し、従業員が自ら運用する新しい形の年金制度です。
企業型DCを採用アピールや定着施策として活用できる一方で、「仕組みがよく分からない」「導入は難しくないのか?」といった疑問を感じる方もいるでしょう。
そこで本記事では、企業型DCの仕組みやiDeCoや従来の退職金との違い、導入するメリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。
「企業型DCを自社に必要かどうか」と迷ったときの判断材料として、ぜひこの記事をお役立てください。
企業型DCについて動画でもわかりやすく解説していますので、あわせてご覧ください。
企業型確定拠出年金(企業型DC)とは

『企業型DC』とは、会社が従業員の老後資産形成を支援するために導入する年金制度のことです。
企業型DCを導入した会社が従業員のために掛金を拠出し、その資金を従業員(加入者)自身が運用します。
そのため、「会社の拠出額+従業員の運用結果」によって将来受け取る金額が変わることが最大の特徴です。
原則として、運用で積み立てた年金は60歳まで引き出せません。
会社が掛けた掛金は全額損金算入できるため、退職金の積立をしながら税務上では費用として扱えます。
企業型DCは従来の退職金制度と異なり、将来の給付額があらかじめ確定していないため、運用結果による不足分を会社が補てんする必要がありません。
企業型DCの導入は年々増えており、2025年時点で実施事業所数は58,300社を超えています。(※)
【※参考】厚生労働省|確定拠出年金統計資料(2025年3月末)P4
企業型DCには設計タイプがいくつかあるので、ここではメジャーな『選択制』と『マッチング拠出』の2つを紹介します。
選択制
企業型DCの設計タイプのひとつである『選択制』は、従業員が自分のライフプランに合わせてお金の使い道を選べるのが大きな特徴です。
選択制を導入する会社は、通常の給与とは別に「生涯設計手当」という新しい手当を設けます。
従業員は、生涯設計手当について次のどちらかを選びます。
① 企業型DCの掛金として積み立てる
② 生涯設計前払金として、今の給与として受け取る
つまり、選択制は、会社があらかじめ用意した選択肢の中から「拠出するか・しないか」「いくら拠出するか」を、従業員本人が決められる仕組みということです。
「将来に備えたい人」は積み立てを選び、「今の生活を優先したい人」は給与を受け取るといった選択ができます。
企業型DCの選択制については以下の記事でも詳しく解説しているので、あわせて読んでみてください。
関連記事▶︎▶︎企業型確定拠出年金の選択制とは?仕組みやメリット・デメリットを解説
マッチング拠出
『マッチング拠出』も、企業型DCの設計タイプのひとつです。
マッチング拠出は、企業型DCに加入している従業員が、会社が拠出する掛金に“上乗せして”自ら掛金を追加できる仕組みです。
従業員が追加で拠出した掛金も、企業型DCの個人口座で運用され、将来の年金資産として積み立てられます。
2026年2月時点では、マッチング拠出の利用にあたって次のルールが適用されています。
- 会社と従業員の合計掛金は、法定の拠出限度額の範囲内であること
- 原則として、従業員の拠出額は会社の拠出額を上回らないこと
ただし、ルールの見直しがあり、2026年4月1日からは「従業員が上乗せする掛金が会社の拠出額を上回らないこと」という制限が撤廃される予定です。(※)
【※参考】厚生労働省|確定拠出年金法施行令の一部を改正する政令の公布について(通知)
企業型DCの拠出限度額

企業型DCは、1人あたり数千円から拠出できますが、拠出できる金額には法律で定められた上限(拠出限度額)があります。
拠出限度額は、会社が「企業型DCのみ」を導入しているか、あるいは「確定給付企業年金(DB)など、ほかの企業年金を併用しているか」によって異なります。
企業型DCのみを実施している場合
企業型DCの拠出限度額
→ 月額55,000円
企業型DC+DBなどを併用している場合
企業型DCの拠出限度額
→ 月55,000円 − DBなど他制度掛金相当額
《例》DBの他制度掛金相当額が月20,000円と算定されている場合
55,000円 − 20,000円 = 35,000円が企業型DCの拠出限度額となる
なお、2026年12月1日からは、企業型DCの基本上限額が55,000円から62,000円へ引き上げられる予定です。(※)
上限の引き上げにより、企業型DCのみを実施している会社では理論上、最大62,000円まで拠出できます。
従業員がiDeCoに加入している場合の上限額は、企業型DCとiDeCoを合わせて62,000円です。
【※参考】厚生労働省|確定拠出年金の拠出限度額
企業型DCとiDeCo・退職金との違い

ここからは、企業型DCと関係性のある『iDeCo』と『退職金』の違いについて詳しく見ていきましょう。
iDeCoとの違い
企業型DCとiDeCoは、どちらも老後資産形成のための制度ですが、「誰の制度か」「誰がお金を出すか」が大きく違います。
- 『企業型DC』=会社が用意する退職金制度
- 『iDeCo』=個人が自分でつくる年金制度
2つの違いを表にして詳しく見ていきます。
| 【企業型DC】 | 【iDeCo】 | |
|---|---|---|
| 制度を用意する人 | ・会社 →従業員はその制度に参加する | ・国民年金基金連合会 →個人が自分で加入・運用する |
| 加入できる人 | ・制度を導入している会社の従業員 | ・ほぼすべての立場の人が対象 ただし、企業年金(企業型DC・DB)に加入している人は、条件付き |
| 掛金を出す人 | ・基本は会社 (マッチング拠出の場合は、加入者本人も可) | ・基本は、加入者本人 |
| 掛け金の上限 | ・基準は月55,000円 ※1 ・DB(確定給付企業年金)などがある場合は「55,000円 − 他制度掛金相当額 」 ・マッチング拠出は「会社掛金を超えない」+「合計で上限内」※2 ※1 2026年12月以降は62,000円に引き上げ ※2 2026年4月以降、「会社の掛金を超えない」という条件が撤廃 | ・立場によって上限が違う ーーー 《例》 ・自営業者、フリーランス:月68,000円※ ・会社員、公務員:月20,000円または23,000円 ・専業主婦(主夫):月23,000円 ・海外居住など:月68,000円※ ーーー ※ 国民年金基金や付加保険料を払っている場合は、その分を差し引く |
| 税務上の扱い | ・会社が拠出した資金:損金算入 ・従業員が拠出した資金(マッチング拠出):所得控除の対象 | ・本人が拠出した資金:所得控除の対象 |
| 社会保険料の扱い | ・会社が拠出:算定対象外 ・従業員が拠出(マッチング拠出):算定対象 | ・掛金によって社会保険料は変わらない |
企業型DCは「会社が従業員の将来を支える制度」、iDeCoは「個人が自分の将来を守る制度」であり、両者は対立ではなく補完関係にあります。
2022年10月からは、企業型DCに加入していてもiDeCoにも加入できるようになりました(マッチング拠出の場合は加入不可)。
退職金との違い
退職金制度とは、従業員が退職する際に、会社が一時金または年金を支給する仕組みの総称です。
退職金制度には、さまざまな種類があります。
- 退職一時金(社内で積立)
- 中小企業退職金共済(外部で積立)
- 確定給付企業年金(DB)
- 企業型確定拠出年金(企業型DC)
退職金制度のなかでも、企業型DCは「企業年金」に位置づけられる制度です。
企業年金には確定給付企業年金(DB)も含まれており、DBの場合は、会社が資金を積み立てて運用し、将来の給付を管理します。
運用リスクも、主に会社が負わなければなりません。
一方で、企業型DCは会社が掛金を拠出しますが、運用は従業員本人が行います。
そのため、運用リスクを会社が負う必要がなく、将来の給付額は運用結果に応じて変動する仕組みです。
退職金制度は「退職時のお金の仕組み全体を指す大きな枠」であり、企業型DCは「その中のひとつの年金方式」という関係にあります。
「企業型DCに入らないほうがいい」と言われる理由

インターネットで企業型DCについて調べると、「デメリットしかない」「入らないほうがいい」といったネガティブな内容が書かれていることがあります。
リサーチを進めると、以下の理由で不安に感じる人がいるようです。
企業型DCをデメリットに感じる要素
- 原則として60歳まで資産を引き出せない
- 運用の選択次第では、元本割れのリスクがある
- 投資や運用の知識が求められる
- 将来受け取る厚生年金額が減る可能性がある
- 運用費の負担がかかる(会社側)
企業型DCは「原則、60歳まで引き出せない」「将来の受取額が確定しない」などの特徴から、加入者である従業員から不安の声が上がることも少なくありません。
年齢制限や受給額の不確定に不安を抱える従業員もいるため、企業型DCを導入する会社には、従業員の理解と納得を得る説明が求められます。
「制度や資産運用の説明ができるか不安…」という方は、導入をサポートできる金融機関や社労士などに相談をしましょう。
企業型DCは、導入すれば自動的にメリットが生まれる制度ではありません。
会社の規模や従業員構成、採用・定着の課題などを踏まえた設計ができて初めて、会社や従業員にとって納得感のある福利厚生として機能します。
企業型DCのメリット4つ

デメリットの声がある一方で、企業型DCにはさまざまなメリットがあります。
ここでは、実際に企業型DCを導入している会社が実感しているメリット4つについて詳しく紹介します。
1.会社の規模に関係なく導入できる
企業型DCは、会社の規模に関係なく導入できる制度です。
取り扱いの金融機関によっては、役員1人から加入できるケースもあります。
また、企業型DCの選択制を選んだ場合、加入を希望する従業員の給与から拠出するため、一般的な退職金制度のように多額の原資を用意する必要がありません。
会社の状況に応じて拠出額を設定できるため、「これから福利厚生を整えたい」と考えている企業でも検討しやすい制度と言えます。
関連記事▶︎▶︎中小企業の福利厚生の現状は?導入しやすい福利厚生や活用事例を紹介
2.従業員の資産形成をサポートできる
企業型DCを導入すると、会社の拠出金をもとに、従業員が将来に向けた資産形成を進められます。
給与とは別に老後資金を積み立てられるため、従業員の将来不安の軽減や定着率向上にもつながりやすい点が大きなメリットです。
さらに、企業型DCの給付を受ける権利は差し押さえが禁止されています。
万が一、個人が債務を負った場合であっても、原則として積み立てた年金資産が守られる仕組みです。
3.福利厚生の充実として採用・定着に使える
近年では、給与水準だけでなく、福利厚生の内容を重視する求職者も増えています。
東京商工会議所の調査によると、就職先の決め手に「福利厚生」を選んだ回答者が44.9%を占めました。(※)
【※参考】東京商工会議所|就職先の会社を決める際に重視したことは、社風・職場の雰囲気、処遇などの順
企業型DCを導入していることは、「従業員の将来まで考えている会社」というメッセージにもなります。
既存の福利厚生に加えて企業型DCを整備すると、採用時のアピール材料になるだけでなく、従業員の定着を高める施策として活用できるでしょう。
4.将来の退職金リスクを会社が抱えなくて良い
企業型DCは、将来の受取額があらかじめ確定している制度ではないため、運用結果が悪化しても会社が不足分を補てんする義務はありません。
会社は将来の退職金支払額に関する債務を抱えにくくなり、経営の見通しを立てやすい点がメリットになります。
企業型DCの導入手順

企業型DCの導入は、「運営管理機関(金融機関系)」や「企業型DCの導入支援会社」「社労士」などに相談できます。
ここでは、社労士法人である当事務所で行っている導入サポートの手順を紹介します。
企業型DCの導入手順
- 導入条件の確認
- 申請書類の作成・申請
- 従業員説明会
- 加入者登録
- 積立・資産運用スタート
企業型DCの導入にあたって、会社は就業規則を提出しないといけません。
就業規則がない場合は新たに作成となるため、必要な場合は、当事務所が有償で作成します。
もちろん、すでにある就業規則の見直しも可能です。
会社サイドでは、会社情報が確認できる書類として以下の書類をご用意ください。
- 履歴事項全部証明書(登記簿謄本)
- 法人の印鑑証明書(原本)
- 厚生年金適用事業所と確認できる書類(毎月の社会保険料の領収済書)
制度の内容が確定し、書類申請が終わったあと、当事務所の担当者が従業員への説明会を実施します。
加入者登録が済み次第、積立・資産運用のスタートです。
このように、専門的な知識が必要であったり手間がかかる手続きがある場合でも、当事務所のような社労士法人に相談すると一括でサポートを受けられます。
企業型DCの導入サポートは、あいわOfficeにお任せください
あいわOfficeでは、企業型DCの導入にあたり、申請書類の作成や従業員への説明・投資教育などをまとめてお任せいただけます。導入前には丁寧にヒアリングをし、貴社に最適なプランをご提案いたしますので、安心してご相談ください。
全国対応しておりますので、「企業型DCに興味がある」「導入を検討したい」という方は、お気軽にお問い合わせください。
企業型DCに関してよくある質問

最後に、企業型DCに関してよくある質問をまとめましたので、導入の際の参考にしてみてください。
公務員は加入できますか?
企業型DCは、企業が導入する私的年金制度であり、実施企業に勤務する従業員のみが加入対象となります。
公務員は厚生年金の被保険者ではあるものの、企業型DCを実施する事業主に雇用されていないため、原則として企業型DCには加入できません。
企業型確定拠出年金は転職・退職後どうなりますか?
企業型DCは、転職や退職といった勤務先が変わるタイミングでも、資産を受け継いで運用を続けられる仕組みが設けられています。
転職や退職をすると、これまで加入していた企業型DCの資格は原則として喪失しますが、積み立てた年金資産は次のような形で移し替えが可能です。
転職先に企業型DCがある場合
→これまでの企業型DCの資産を転職先の企業型DCへ移換して、継続して運用できる
転職先に企業型DCがない場合
→これまでの資産を個人型確定拠出年金(iDeCo)へ移して運用を続けられる。
60歳未満で退職・転職した場合は、移換の手続きに期限がある点に注意です。
企業型DCの加入者資格を喪失した月の翌月から起算して、6ヶ月以内に移し替えの手続きを行わなければなりません。
手続きをしなかった場合、資産は自動的に国民年金基金連合会へ移され、その後運用ができなくなります。
自動移換された場合、資産は運用されない期間が生じたり、手数料が追加でかかったりする可能性があるため、期限内に手続きを済ませましょう。
【まとめ】企業型DCの導入には「設計」が大切

企業型DCは、単なる退職金制度ではなく、採用・定着の対策としても注目を集めている制度です。
企業型DCは、「とりあえず導入する」ものではなく、自社の課題・従業員構成・予算・将来像を踏まえて検討できると、制度の価値が大きく変わります。
とくに中小企業においては、制度設計の良し悪しがそのまま採用力や定着率に影響する可能性もゼロではありません。
自社に合った形で設計し、従業員が納得して活用できる仕組みにすることが、企業型DCを成功させる最大のポイントと言えるでしょう。
企業型DCの導入サポートは、社労士法人『あいわOffice』にお任せください
あいわOfficeでは、単なる書類手続きの代行ではなく、自社に合った企業型DCの設計から運用開始までを一貫してサポートしています。
- 既存の退職金制度や人事課題のヒアリング
- 選択制・マッチング拠出の検討
- 拠出限度額に沿った掛金設計
- 就業規則の整備・作成
- 必要書類の作成・申請
- 従業員向け説明会の実施 など
とくに、従業員説明会は重視しており、「なぜ導入するのか」「どんなメリット・デメリットがあるのか」をわかりやすく伝えることで、制度への納得感を高めます。
企業型DCの導入から運用開始までは6ヶ月程度かかりますが、スケジュール設計から伴走支援しますので、はじめての導入でも安心して進めていただけます。
「採用力を高めたい」「従業員の定着を改善したい」「将来の退職金リスクを軽減したい」とお考えの方は、ぜひ、あいわOfficeにご相談ください。

【この記事の監修者】
社会保険労務士法人
あいわOffice代表
嶋崎 豊人
同志社大学卒業後、2015年に行政書士事務所と社会保険労務士事務所を開設。
2020年には、山口県下関市の現事務所にオフィスを移転し、2021年に法人化。2024年には、福岡市博多区に福岡オフィスを開設。
人生100年時代と言われるなかで、中小企業で働くすべての人が「この会社で働いて良かった」と思える組織づくりを目指して、日々奮闘中。
